河北潟の湖岸再生と水生植物の系統保全

高橋 久・川原奈苗(河北潟湖沼研究所)


 干拓前の河北潟地域は、潟自体とともに、複雑な水路や河口の泥湿地、畝田と呼ばれる湿田など周辺に様々な形態の水辺環境が存在する豊かな水郷地帯であった。潟の岸辺や周辺の水路にはオニバスなどの多くの水草が繁茂し、それらを生息場所とする水生動物が豊富であったと考えられる。1963年に始まった国営河北潟干拓事業は、潟の1/3を干拓し農地を造成するとともに、沿岸耕地3,275haの排水改良を図るもので、潟の中だけでなく、周辺地域を含めた大事業であった。この事業により河北潟と周辺の水域環境は大きく変容し、かつての水郷地帯の面影はほとんどなくなった。また残された水域も、近年の圃場整備や宅地化に伴う河川や水路の改修などにより人工化が進んでいる。
 このような環境の大幅な改変の中で、河北潟地域の水生生物群集は一部の種を除いて消滅の危機に瀕している。こうした河北潟地域の水域の現状のもとでは、復元型水辺ビオトープを造成することは意義があるものと考えられ、演者らは1998年より河北潟干拓地内にミニビオトープの造成を始めた.このビオトープではかつての河北潟の湖岸風景を再現するとともに、河北潟に残る水生植物の種と系統を保存することを目的とし、河北潟の水生植物調査の結果に基づいて、河北潟にわずかに自生する稀少性の高い水生植物を一部移植することとした。 
 このビオトープでは造成時より生物の生息状況のモニタリングを実施している。現在まで比較的順調に、植栽された植物の定着と周辺からの生物の侵入が起こっており、これまでに水生種30種以上を含む約60種の動物が確認されている。この他に、まだ調査が進んでいない陸生昆虫等が生息している。ビオトープを利用する鳥類も出現し、アオサギ、キジ、オオヨシキリ、コヨシキリ、スズメ等の採餌が確認されている。また観察小屋下からは、キツネのものと思われる食餌跡が確認されている。植物は29種を植栽した内、24種が定着している。これらを含めて約60種の高等植物が確認されている。ビオトープの周囲は平坦な土地に広がる耕作地とヨシ原であり、これら周辺環境と比べると、ビオトープでは多様性のある生物群集が形成されつつある。
 現在の管理上の問題としては、造成2年目にヨシの繁茂によりミズアオイなどの丈の低い一年草が成長を阻害されたこと、ウシガエルが産卵したことにより、幼生が多数生息していることによる影響が懸念されること等が挙げられる。
 このビオトープにおいて再生された水辺の姿を市民に示し、河北潟の水辺再生への気運が高まることを期待し、パンフレットを発行することにより河北潟の水辺の再生と希少植物の保全を呼びかけた。その後、石川県がおこなう河北潟周辺の水路改修の際に、水生生物を保全するための水辺ビオトープを併設するような動きも現れてきた。 

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