(2000年11月26日「小さないしかわ動物園づくり推進交流集会・ポスター発表」

湖岸再生を目指したビオトープ実験池の経過

川原奈苗・高橋 久(河北潟湖沼研究所)

はじめに

 河北潟は、現在の約3倍の面積を持つ北陸地方最大の汽水湖であったが、1963年から始まった国営干拓事業により、環境が大きく変化した。干拓事業とともに、水辺は人工護岸が施され、水路は大部分が道路化や便宜性をはかった直線型のコンクリートへと改変された。
 汽水から淡水への急激な変化と植生を伴う自然の水辺が激減したことで、多くの生物の生息環境が奪われることになった。
 河北潟湖沼研究所は、水辺環境の再生が第一歩として、移行帯のある水辺を創出したビオトープ池を造成した。ビオトープ池は、絶滅の危機にある水生植物の系統保存の場としても機能することを目指している。
1998年4月2日から1998年4月21日に休耕地を素堀し、開放水面が直径約10m、深さは最深で1.5mほどの池を造成した。
1998年5月9日に河北潟の農業用水から導水した。

主な希少水生植物について

沈水植物 マツモ

 マツモは、造成した年の9月下旬から勢いよく繁茂し始め、水中の大部分に広がった。
 翌年は、6月初旬に池の片隅で生育を確認し、中旬頃から勢いよく増殖を始め、7月には池全体的に広がった。8月から10月にかけ密に繁茂し、10月下旬に枯れ始め、11月中旬にはほとんどが消失した。造成後3年目では、マツモの生育はみられなかった。

浮葉植物 アサザ

 植栽2カ月後には水上葉が水面の約半分を覆った。ミズメイガによる食害で、9月にはほとんど葉が消失するが、10月に新しい葉を展開する。冬季は、水辺の浅いところで殖芽がみられた。
 翌年は4月初旬に葉が展開し、ミズメイガによる食害はみられたが、生育は順調で6月には水面全体を覆った。5月下旬から花が咲き出し、多いときには110数個の花が一度にみられた。花を咲かせた葉は、一回りほど小さなものに変わることが顕著に見られた。7月中旬に水上葉が全て枯れ、一部で新葉を展開した。10月中旬のヨシの刈り払いの約2週間後に水辺で広がりを見せた。1月初旬にはすべて消失した。水辺では殖芽がみられた。
 造成後3年目では、昨年度と同じく順調に生育していたが、5月中旬には水辺の一部でしかみられなくなる。花は2つのみの確認であった。7月1日には、アサザは全くみられなくなった。

抽水植物 ミズアオイ

 造成した年が最も生育が良好で、種子を植えた約2週間後に発芽し、順調に成長して9月に開花した。翌年は、春先に発芽するが成長が極めて遅く、周辺植物に光を遮られるようになり、生育が困難となった。植栽を再度おこなったところ、生育が良好で、すぐに大きな葉を展開した。9月に開花し10月中旬には枯れ始めた。造成後3年目では、春先に発芽するが、昨年度と同じく生育が悪かった。7月には、全て消失した。

抽水植物 マコモ

 植栽後水辺の一部で順調に生育していたが、ヨシに周囲を覆いかぶされ、造成後2年目の秋には、すべて水面側に押し倒された。造成後3年目では昨年度と同じ場所で生育がみられ、水辺でヨシとともに混生し、若干広がりをみせている。マコモは通常ヨシより水深の深いところに生育するが、池では水深の深いほうへは生育域を拡げていない。花穂は、数本しか確認されておらず、生育条件がみたされていない様子である。

抽水植物 ミクリ

 植栽後の生育は悪く、広がりをみせなかった。翌年の5月と6月に再度植栽を行ったところ、水辺で増殖し、造成後3年目は水深の浅いところで群生した。

抽水植物 ガマ

 順調に生育しているが、ヨシが密生している場所にはみられない。他の植物より水深の深いところで生育するが、少数である。

抽水植物 ヒメガマ

 造成後3年目に入って増殖が目立ち、ガマよりも数が多く、水辺の浅いところでミクリやウキヤガラ、ヨシとともに混生している。

抽水植物 コウホネ

 生育は悪く、造成後2年目では、沈水葉の状態で成長がみられなかったが、7月と10月には葉を水面上に出した。生育を確認したのは2株のみで、広がりはみられない。葉は食害にあっている。

抽水植物 フトイ

 植栽後は順調に生育し、造成後1,2年目では、一部で群生した状態にあったが、2年目の夏頃からヨシが混生し始めたが、翌年の春から勢いよく生育範囲を広げだした。


現在の状態

 造成後3年目にはいり、ビオトープ池から多くの植物が消失した。
 マツモ、カンガレイは春から確認されていなかったが、コウホネ、ミズアオイ、アサザ、マツバイは、7月頃にみられなくなった。
 トチカガミとミズアオイ、アサザは7月半ばに植栽をおこなったが、アサザでは植栽した翌日にアメリカザリガニによって全て切断され、トチカガミとミズアオイは8月中に全て消失した。
 アメリカザリガニは、今年の7月から頻繁に確認されるようになり、水草の消失時期と一致している(帰化生物の年表を参照)。
 水生昆虫は、造成後2年目は水辺で多数確認されたが、造成後3年目はアオモンイトトンボ、シオカラトンボの幼生、コガシラミズムシ、マツモムシなどが少数確認されただけで、みられなくなった。9月以降は水辺で多くみられたサカマキガイもみられなくなった。ヌマエビ、アナンデールヨコエビは数多く確認された。また、10月下旬にアメリカザリガニの若齢個体が確認され、その後水辺で多数みられている。
 水辺は、ミズアオイやヘラオモダカなどの水生植物が消失すると、ミクリやヒメガマ、ヨシ、イボクサなどが繁茂した。沈水性、浮葉性の植物が消失し、草丈のある抽水植物が繁茂し、移行帯の植生は単調化している。


まとめ

  1. ビオトープ池を造成して3年目にはいり、遷移が進むなかで、生育力の弱い希少水生植物は生育が困難となっている。また、アメリカザリガニによる直接的な妨害がおき、数ヶ月の間に6種の植物が消失した。沈水性、浮葉性が消失したことで移行帯の植生が単調化した。

  2. 帰化生物の侵入では、造成後2年目の夏にウシガエルが産卵し繁殖、造成後3年目ではアメリカザリガニが多くみられ、秋には若齢個体を多数確認した。

  3. 池への帰化生物の侵入がみられることは、周辺環境において普遍的に存在していることが考えられ、ビオトープ池がおかれている傾向と類似した状態は多いと思われる。そのような中で、在来種の生息環境を保全、復元していくために対策を練ることは重要な課題とされる。

  4. 流出口を設けていないため、遷移が進むと同時に、水質の富栄養化が進行する状況にある。池の一部を隔離し、富栄養化されない流水部を設けることも検討している。

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