河北潟周辺の里山で繁殖するミサゴ

 2002.4.16 生物委員会 白井伸和

 丘陵地のミサゴたちが今年も繁殖の季節を迎えた。雌は3月の下旬から4月の中旬にかけて次々と抱卵に入る。一昨年から河北潟周辺のミサゴの繁殖調査を始めて今年で3年目になるが,この時期に生物委員会のメンバーでひとつひとつ巣を見てまわるのが,恒例の行事になってきた。巣を見るといっても尾根沿いのアカマツの大木の梢に造られた巣を覗き込むこともできないし,繁殖に影響を与えてはいけないから,何百メートルも離れたところからスコープを使って観察するのである。巣は生きたアカマツかあるいはアカマツの枯れ木の梢にあって,枯れ枝を組んで造られており,直径1m以上にもなる。その大きな巣の中央に白い頭だけがちょこんと見えると,雌が抱卵に入ったことがわかる。

 ミサゴは,河北潟など,静かな水面近くを泳ぐ魚を捕らえて生活している。雌は,繁殖期になるとほとんど巣を離れず,餌は雄の持ち帰る魚に完全に依存するようになり,雄が魚をとりに出かけているときには,一羽でじっと卵や雛を守っている。雄が魚を持って巣にもどってくると,雄は空中で,雌は巣の中で,互いに喜びを全身で表すかのように強く鳴き交わす。また,雛に対しては,魚の肉を食べやすいように細く割いてあたえたり,日差しの強い日には翼を拡げて日よけをつくったり,実に細やかな愛情を注ぐ。ミサゴは,じつに感情の豊かな鳥である。ペアの間で,また雛に対して交わされる情の深さに,何か,人間の方が大切なことをおしえられているような気がする。

 金沢市から高松町にかけての河北潟をとりまく丘陵地でこれまでに確認されたミサゴの巣は,古巣も含めて30巣あまり,つがいの数は20数つがいである。見つかっていない巣があることも考慮して,30から40つがいくらいが,この地域内で繁殖しているのではないかと予想している。ごく少人数のメンバーしかいないため,思うように調査が進まないところもあるが,気長に観察を続けていくつもりである。ミサゴは,水域と陸域の両方を含んだ広域にわたる生態系を必要とする種であり,またその生息環境は,人間の生活圏とも大きく重なっている。ミサゴにとっての環境は,私たち人間にとっての環境でもあるともいえよう。私たち人間が,自然とどう関わり共存していったらよいのか,そこまで言ったら少し大げさかもしれないが,ミサゴの調査を通じて少しでもその答えに近づけたらと思っている。

河北潟周辺のミサゴは、主に丘陵地のアカマツに営巣する。
 
巣のなかで雌が抱卵している。

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