河北潟に珍鳥”アカアシチョウゲンボウ”が飛来

 昨年、11月15日に河北潟の東部にあたる才田町付近で、これまでに全国的にも数例しか確認例がない珍鳥であるアカアシチョウゲンボウが確認されました。この鳥は小型のハヤブサの仲間ですが、中国大陸から朝鮮半島で繁殖し、アフリカ南部で越冬をする渡り鳥です。日本には春と秋の渡りの時期に迷行することがあり、これまで十数例の確認記録があるようです。河北潟では、1988年に幼鳥1羽の飛来の記録があり、今回の確認は、13年ぶりの確認ということになります。
 こうした珍しい草原性の猛禽類が飛来することは、河北潟地域が草原を伴う低地の自然環境として、たいへん貴重なものであることを、さらに裏付けるものといえそうです。
 このアカアシチョウゲンボウの飛来を最初に確認したのは、当研究所生物委員会の三浦淳男氏でした。このたび三浦氏から発見時の様子をまとめた文章と写真の提供を受けましたので、以下に掲載します。写真撮影は河北潟で野鳥の調査をおこなっている中川富男氏によるものです。

(写真提供:中川富男氏)

アカアシチョウゲンボウ(Falco amurensis)はどこから来たのか、どこへ行ったのか

2001.11.15 三浦淳男

寝転がって疲れの中に澱んでいた。
寝返りをうった瞬間、中庭からの光が僕の顔を熱くした。
光につられて玄関の扉を押した。過剰な光だった。
世界が隈なく露出している。眩暈(めまい)がした。
怠惰に見送る筈だった一日はこうして中断され、僕は河北潟へ出かけることになった。

才田町から農業試験センターの東に出るコースをとった。電柱にとまっているノスリを1羽ずつ見上げていく。光に曝される困惑したようなあの表情に心が緩んでくる。

3羽目のノスリの顔の向こうに低く旋回している猛禽の影が入った。目のピントがノスリの髭面を飛びこえて奥に合う。

ハヤブサ類だ。小さい、長い、切れ味がいい。
チョウゲンボウ?一蹴。初列の先端へ向かって切れていく感触が違う。硬い翼だ。
チゴハヤブサかな?探餌しているらしい様子に見覚えがない。
見続けるしかないか。逆光気味、発色しない。

地上10m−30mあたりの空間を帯のように支配して、旋回と滑空を繰り返している。

緩慢なスロープを滑り下りるような、空から吊り下げたブランコに座って地上をかすめるような滑空。
探餌しているようだが、記憶の中にあてはまる姿がない。

双眼鏡の奥に捉えたのは11:40A.M.。
12:05P.M.やや東に流れ始める。
いったん目を離すと、車で接近する。
再びその姿を掴むが、やはり発色しない角度。
尾羽右の3番が抜けている。
12:10P.M.降下すると電線の上にとまった。
ゆっくりと順光方向に車を回す。

頭の中の不快感と焦立ちが一気にとれた。
アカアシチョウゲンボウ(Falco amurensis
雌成鳥。
僕は愉しむモードに一変した。
ろう膜、眼瞼、足の強い柿色。
上面の深く透明な墨色。
尾羽根を抜き去って伸びる初列風切。
目先からついと垂れる頬髭の鋭角。
下面には羽搏く横帯の群。
下尾筒は薄い柿色に染まってる。
頬や下面の地色の白さは光を透さないが光を包む白。

電線にとまって探餌を続ける。飛び立っては真下の田圃の畦に立つ。地上をこするように滑空すると地面をつかむ。バッタを掴って戻ってくると、同じ電線の上でむしり喰った。

飛び出し、数回旋回すると、地上へ滑り込んだ。
餌物をつかんだ刹那チョウゲンボウが背後から突っかかってきた。
2羽の声が1,2秒交錯。
キキキキと裂帛の声がアカアシ、キッキッキッと強く純度の低い声がチョウゲンボウだったようだ。

彼女のホバリングはやや固かった。
チョウゲンボウのホバリングを見慣れた目には、空気と格斗しているきゅうくつさを感じた。
チョウゲンボウは柔和に空気を操ってるよ。

報せなければならない人の顔が浮かんだ。
中川富男氏にTel。
最後の15分に間に合ってくれた。
おかげでこの写真を残すことが出来た。
彼女と出会った僕等は、この明るい光の中で解放的な秘密を分かち合った。すこし紅潮していたかもしれない。

再び飛び立った彼女は、出会った時のままに、低く旋回と滑空を繰り返しながら西へと移っていった。
後を追ってみたが、もう一度の出会いはなかった。