小さないしかわ動物園交流会詳報

 小さないしかわ動物園づくり推進交流集会(副題「モニタリング事例とビオトープ活動交流」)は、11月26日(日)13:30より約50人の参加のもと、石川県ふれあい昆虫館(石川県石川郡鶴来町八幡町戌3)においておこなわれました。
 石川県内のビオトープ活動6題の事例報告がおこなわれました。以下は、各発表者の講演内容についてのメモを書き直したものです。

 
スライドやOHPを使用して、県内の活動事例が紹介された。(写真の発表者は、事例発表3の草光紀子さん)   熱心に講演を聴く参加者。今回は一般市民や小中学校の先生、研究者、NPO、行政などから参加があった。

 

事例報告1:「鴨池田んぼクラブ」の取り組み
(大畑孝二さん「加賀市鴨池観察館・鴨池田んぼクラブ」の発表)
 鴨池田んぼクラブの活動として、水鳥の保護と水田づくりの紹介をスライドを使用しておこないたい。鴨池は、ラムサール登録池であり、鳥獣保護区、国定公園となっている。田んぼクラブは96年から取り組み始めている。もともと鴨池は江戸時代の水田開発から始まったもので、夏はほとんどが水田、秋は水門を開け水を張り鴨猟をおこなってきた場所である。できるだけ早稲品種をつくり、鴨猟に備えてきた歴史をもち、江戸時代のビオトープであったといえる。このように、鴨池は農家の関与の元で維持されてきた経過があり、水田が少なくなった現在では、カモ類の減少が確認されている。本来は鴨池の外の水田はカモ類の餌場であったが、水田放棄によりヨシ原が拡がっており餌場にならなくなってきている。鴨池を保全するだけではだめで、周辺の水田を保全する必要がある。一方、農家は高齢化しているため、水田耕作を続けるのは難しく、「田んぼクラブ」を結成し、農家から休耕田を借りて田んぼの造成をおこなった。稲刈り等昔ながらの1年間の農作業をおこなってきた。98年からは加賀市も水田復元の取り組みに参加し、鴨池観察館の前に670平方メートルの田んぼを造成した。
 田んぼをつくったことによって、ミズアオイ、デンジソウ等の水生植物や田んぼの生き物が増えてきた。鳥についての記録をとっているが、最初はアオサギ、その後ヒシクイがはいってきた。そしてマガモやカモ類が入ってきた。ハクチョウも入ってきた。初年15種、2年間で23種が記録された。今年もマガン、ヒシクイ、ハクチョウ等が入っている。
 マガモに小型の発信器をつけて夜間にどこに行くのかを調べた。マガモ、トモエガモ、ハシビロガモ等が加賀市内の水田に出かけている。水田に水を張り野鳥のビオトープとしたい。

事例報告2:森山町小学校ビオトープの造成の経過
(小林幸雄さん「森山小学校教諭」の発表)
 つくる活動をつくりたいということで、できあがったものすばらしさとともに、つくる過程を重視して取り組んだ。まず、生徒にアンケートをとり、どんな自然が周りにあるか、どんな環境をつくりたいかを尋ねた。そのなかで、子供たちから自分たちでつくりたいという声が出てきた。そこで次に、ビオトープとはなにかの学習をした。また、ビオトープ通信を月に2回出し、ビオトープデザインの募集をした。通信は第2号から子供が作った。
ビオトープをつくる前に、4年生は金沢市のテキストを使い学習した。5年生はプールの生物を観察、6年生は酸性雨の学習等を通じてビオトープにつなげた。
 造成の担当として、3年生は、昆虫の授業をおこなったことから昆虫昆虫の住みかをつくることを担当した。4年生は木の担当で、植樹をおこなった。5年生はメダカを育てていたので、メダカを池に放した。6年生は主に力仕事を担当した。
 5月下旬から花壇を撤去し、池をつくる作業、池の周りの整備をおこなった。造成の中でのエピソードとして、コンクリートをはがす作業中にアリの巣を見つけ、熱心に観察したこと、花壇の鉄骨を撤去するのにPTAの協力を呼びかけ、積極的な協力を得たこと、手伝いの呼びかけをビオトープ通信でおこなったところ、保護者からの協力を得て、防水シートや田んぼの土、橋の木材を得ることができたことなどが挙げられる。

事例発表3:「小さないしかわ動物園づくり」マニュアル作成について
(草光紀子さん「環境公害研究センター」の発表)
 「小さないしかわ動物園づくり」マニュアル作成は、県の事業の一環である。県では自然環境の現状の調査をおこない、石川県レッドデータブックを作成した。野生生物の危機的状況があり、その現状を打開するための一つの取り組みとして 「小さないしかわ動物園づくり」が企画されている。その中で交流会やマニュアルづくりをおこなっている。
 「マニュアル」作成のねらいは、地域の自然に即したビオトープづくりをおこなうことである。ビオトープづくりを通じての自然環境への理解を進め、ビオトープネットワークの形成を目指している。同時に人的ネットワークの形成をおこないたい。
 「マニュアル」におけるビオトープの考え方としては、地域の環境の特徴と地域の固有種が住み着いてビオトープが形成されるという観点を重視するという点、生物多様性、遺伝的多様性、地域特性の観点をもつこと、小さなビオトープ間のつながりを重視することが挙げられる。
 「マニュアル」は、石川県の自然環境の特徴、ビオトープの解説、地域に即したビオトープづくりの必要性、タイプ別のビオトープづくりの方法、県内事例紹介、専門家・派遣人材リストから構成される予定である。
県内事例の調査・取材の結果、ビオトープへの取り組みは、現在学校によるものが最も多く、NGO、個人、行政、企業による取り組みがこれに続いている。また、平成11年から12年にかけて学校ビオトープが急激に増えている。取り組みの特徴として、学校では環境教育や生徒の自発的活動の一環としている場合が多いこと、NGOでは、希少生物の保護をおこなっているところが目立つことが挙げられる。ビオトープのタイプとしては、水辺ビオトープが3分の2をしめ、また、ほとんどが創造型ビオトープであった。
 取材の感想として、維持管理の問題が全体にあることを感じた。ビオトープの目的をどこに持っていくのかによって管理は違ってくる。また、外来種の問題がある。

事例報告4:田鶴浜野鳥公園について
(高橋 久さん「河北潟湖沼研究所」の発表)
 野鳥公園は、県農林事務所が行った事業である。その中で、野鳥の餌となる水生動物の調査をおこなった。
 田鶴浜野鳥公園は、七尾西湾に面した水田を利用してつくったものである。西湾は野鳥の生息場所としてすぐれており、水田には湿田があり鳥によい場所であった。ここが圃場整備されることになり、代替地として野鳥公園をつくった。野鳥にとってより良い環境を加えることによって全体としてよりよい環境となることを目指した。公園は野鳥のねぐらと餌場となることを目指した。鳥の環境であることをまず第1に考え、人が野鳥から隠れるように設計された。
 公園は餌が採れる場所として機能することを目指しており、鳥にとっての餌があることが必要であり、このことは野鳥公園が水生生物のビオトープでもあることを意味している。
公園の池は最初、淡水であったが、後に汽水とすることにより、内湾の中のさらに小さな湾として機能することを想定した。海の生物にとって重要な場所となることを想定した。
最初は、淡水であったため、田んぼの小さな昆虫が入ってきた。海水導入後、海水性の種が入ってきた。昨年までに、多くの種が確認されるようになり、個体数も増えている。鳥の餌環境として機能しつつあるのではないかと考えられる。
 野鳥の生息環境としてはまだまだであるが、今後の期待がもてる状況である。

事例報告5:昆虫館の生態園
(富沢 章さん「石川県ふれあい昆虫館」の発表)
 昆虫館の生態園は1200平方メートルの大きさで、水深は、60-70センチメートルの皿状のみどり池と陸上部から構成される。通路には山の赤土、水生植物の植栽するために水辺には田んぼの土を入れ造成した。陸上部には、里山の雑木林をイメージした木を植え、みどり池の方には辰口、小松から得た水生植物を植えた。池には地下水をポンプアップして給水しているが、毎分100リットル程度であり、その他に表流水などが入り込んでいる。
 これまでの観察では、陸上部は植栽した樹木は枯死したものが多いが、一部ハンノキなどは良く育っている。樹木は全体に葉は小さく生育不良である。原因としては土壌の浸透が悪いこと、地下水位が高いことが挙げられる。もともと人工的な環境であり、植物は育ちにくいと思われる。水生植物の生育は順調であったが、現在、旺盛な成長は示していない。防水シートが根の伸張を阻害していると思われる。またアオミドロが発生した。
 陸上部においては、昆虫が25種類確認されている。そのうち4-5種類が繁殖している。また特定の種が増えている。マメ科、イネ科を食う昆虫が繁殖している。植生が単調なことから特定の種の種が増える傾向がある。ビオトープをつくると特定種が大増殖する例の一つとなっている。
みどり池の方では、40種以上が確認されている。どちらかというと汚い水に棲む種が多い。トンボ約25種、チョウ類1種、カメムシ目7種(内、2種は移入)、甲虫6種などが確認さている。その他、アオサギやイモリ、カエル類などが確認されている。メダカは移入した。フナ、アメリカザリガニは誰かが入れたかも知れない。
動物相を豊かにする上では複雑な水辺環境をつくることが必要である。ヤンマなどは抽水植物に掴まる、イトトンボは浮葉色部に掴まって産卵するなど、それぞれの要求する環境が異なる。今後学校などが、生態園の活用してくれることを期待している。

事例報告6:角間の里山保全の取り組み
(中村浩二さん「金沢大学」の発表)
 金沢大学の角間の里山自然学校の取り組みを紹介したい。角間キャンパスは、もともと里山があった場所にキャンパスを造成したものである。ここでは造成工事が始まる前に事前調査を実施し、10数種の哺乳類や、48種の鳥類が確認されている。この中にはオオタカなども含まれる。
 現在は、管理がされていないため、谷部ではササやヨシが繁茂している状況である。そこで里山自然学校をつくり、下刈りや保全活動と同時に観察会などをおこなっている。これらは地元の住民などの参加で進められている。大学の授業にも里山を取り入れた取り組みをおこなっている。県の森の学校のモデル校なども里山自然学校に関わっている。調査・研究活動へも里山を利用しており、昆虫のトラップを仕掛けたり、観察タワーを設置したりしている。
 角間里山では保全型のビオトープであるが、一部造成した場所には復元型のビオトープの活動をおこなっていきたい。大学ではボランティアの養成などが遅れている。今後大学だけなくさまざまな連携が必要である。

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