谷本県知事が河北潟干拓地の多面的利用の推進について答弁
 
 谷本正憲県知事は、さる2月7日の石川県議会2月定例会本会議で、長憲二議員の代表質問に対して、河北潟干拓地内の未利用地の有効利用について、「狭い意味での農業利用だけでなく、農家と消費者の交流施設などを含め、多面的な利用を視野に入れていく必要がある」との答弁をおこないました。また、関連して伊丹光則農林水産部長は、河北潟の農業の厳しい現状、とくに国への償還金問題について触れ、とくに酪農家の滞納が多く、乳価の低迷や狂牛病問題により厳しい経営を迫られている状況について説明しました。また、河北潟干拓地におけるグリーンツーリズムの展開として、市民農園、直売所、ビオトープ、自然観察園、緑の広場、ふれあい牧場、体験農園などを視野に入れて、金沢市と河北郡5町の見解とともに、農家や都市住民の意見を聞きながら具体化していきたいとの答弁をおこないました。
 県が河北潟干拓地の農業の活性化と未利用地の多面的利用の推進について言明したことは注目に値します。農業従事者の利益を守るとともに自然環境へ十分配慮した、新しい施策が実現されることが期待されます。

農家支援と干拓地農業の活性化を軸にして、野生生物や自然環境との調和

河北潟湖沼研究所 高橋 久

 県議会で河北潟干拓地の将来の利用形態について取り上げられた背景には、莫大な未償還金問題や農業を取り巻く厳しい状況、河北潟干拓地特有の畑地の水はけの悪さや鳥獣害など、干拓地と農家を取り巻く諸問題がいよいよ厳しい状況になっていることがあると思います。たしかに今、河北潟の農家の方からは、あまり良い話を聞きません。干拓地の農地を手放したいと考えている農家もいます。このままでは未償還金がさらに増大していくと思われる状況もあります。従来的な畑作と酪農を軸にした農業支援策では、問題の解決が難しい状況があると思います。
 こうした背景から、干拓地農家の新しい支援の方向とともに、干拓地の新しい利用形態が検討されることは当然のこととも思われます。河北潟干拓地の活性化のために、従来の農業利用だけでない新しい方向性が検討されることは、積極的意義のあることだと思われます。
 しかし一方で、現在の利用形態の中で、干拓地において小麦や大豆を精力的につくり、まだまだ農地を拡大したいとがんばっている若い農家や、新しい入植者がいます。また独自に直売を精力的に進めている農家の方もいます。償還金問題など深刻な状況は変わりませんが、少しずつ希望を導き出そうとする農家の方々の姿が目につくようになりました。こうした農家の方々の努力が報われる形での新しい施策が望まれます。
 今回議会では、交流センターの建設やグリーンツーリズムの振興といったことが提起されていますが、こうした施策が成功に導かれるためには、その舞台となる干拓地において農家が活き活きと農業をおこなっていることが前提です。
 河北潟の自然は原生の自然環境ではなく、あくまでも人間の活動によって形成された二次的自然です。昨年の私たちのカレンダーには4月の菜の花畑、6月の黄金色の小麦畑や7月のヒマワリ畑など、農業活動を通じてつくられた美しい河北潟の風景を掲載しています。自然の植生ではありませんが、幹線道路沿いに植えられたコスモスなどは河北潟の美しい風景のひとつです。これらは生産活動と結びついたものです。干拓地での生産活動が停滞することにより、荒れ果てた農地や捨てられたゴミの山など、グリーンツーリズムとは相反する環境を作り出す可能性もあります。
 県が取り組む施策は、農家支援と干拓地農業の活性化を軸にして、さらに、野生生物や自然環境との調和といったことを達成して進められるものとなることを期待します。
 体験農園が、ただ都市住民の箱庭として完結するものではなく、その周辺の広大な農地を耕す周辺農家との何らかの関係をつくる場となれば、もっとすばらしいものになると思います。直売といった売買を通じた農家と消費者の結びつきをさらに強めることは重要ですが、それに留まらず、農家と消費者が直接的に触れあえる機会を設定すること、たとえば、「援農」のようなかたちで無農薬栽培をおこなう農家を市民が支援することを補助することや、ファームステイ(農村留学)のための宿泊場所の提供など、農家がホストとなるグリーンツーリズムへの援助などはできないものでしょうか?
 こうした、生産者と消費者が目に見える形でつながる取り組みは、生産者の活力を増進するとともに、農業後継者の確保につながるかも知れません。さらに市民にとっては、こうした農業体験が野鳥観察会などの自然体験と結びつけば、精神的に充実した生活をおくるための重要な場所として、河北潟が位置づけられるかも知れません。
 谷本知事もご指摘のように、河北潟は金沢という大消費地からわずか1時間足らずのところにあるという地の利をもっています。最近よくインターネットにより生産者と消費者を結びつける試みがおこなわれていますが、河北潟においては、こうした媒体を通さないでも、直接の交流が可能です。さまざまな夢と可能性を秘めた土地が河北潟だと思います。
 私たちは1999年にパンフレット「河北潟将来構想 −多様な水辺の再生・農業と野生生物の共生―」を発行しました。このパンフレットは、河北潟干拓地が農地であることを前提として、農業と自然環境の共生を図っていくことが「夢のある干拓地」をつくる上で重要であるという視点でつくられたものです。パンフレットの巻末には、「この将来構想は河北潟に残された自然と野生生物を守りながら、干拓地農業の発展を考えるためのたたき台になることを願って作成したものです」と書かれています。私たちの「将来構想」からさらにもっと具体的で実効性のある提案が出されてくることを期待しています。
 来年度おこなわれる河北郡5町による農村振興基本計画の策定においても、私たちの「将来構想」が活用され、農業と自然環境の共生を促すことのできるよう、さらに具体的で良い案が作られることを望んでいます。