住民が主体となる水辺再生の可能性を確認 −シンポジウム「河北潟の水辺を守るためには」−

  シンポジウム「河北潟の水辺を守るためには」は、2月5日に金沢市の労済会館において約60名の参加のもとおこなわれ、活発な議論が交わされるなか、住民が主体となった水辺再生の可能性を確認しました。
 3名による講演の概要は以下の通り。

「日本の水辺の現状と河北潟のおかれている状況」 永坂正夫 氏(金沢星稜大学)
 干拓事業の背景について説明された後、干拓後の河北潟の水質の変化に触れ、現在の河北潟が全国の湖沼のなかでもかなり水質が悪い位置にあること、下水道対策により1990年代後半から水質が改善されてきているが、依然CODの環境基準が達成されず、現在の対策ではこれ以上の水質の改善は期待できないことが述べられた。
 国内外の湖沼のさまざまな手法による水質浄化対策が紹介されたが、河北潟においては湖岸線の再生による浄化手法が重要との見解が示された。
 河北潟の湖岸の現状に近い状況がかつて諏訪湖にはあったが、その後湖岸再生事業がおこなわれている。その取り組みについて紹介されるとともに、河北潟において大がかりな再生・浄化事業だけが有効な手段なのかといった問題提起がなされた。

「河北潟の水辺の現状と再生の方向性」 高橋 久 氏(河北潟湖沼研究所)
 河北潟干拓によって潟の水辺や住民のくらしがどう変わったかについて説明された。最近の変化も加えると、全般的に水辺が単調となり、危なくなり、生物が住めなくなったこと、昔のおもかげの残る水辺が極めて少なくなったこと、また絶滅が憂慮される動植物がみられることが述べられた。一方で、新たな外来植物の問題が起きていることが報告された。
 そうした状況の中で、河北潟の水辺を再生する方法として、土木工事を伴う公共事業による方法、土木工事をおこなわないことにより自然の回復力による再生を待つ方法、住民の力による水辺の再生の方法の3つの方法があることが述べられた。
 このうち土木工事を主とする公共事業による水辺再生は、大きく形状を改善したり大規模な効果を期待できるものの、コストの割に効果が不明である場合が多い、画一的で多様性の創出につながらない場合がある、一時的に裸地が生じ外来種が侵入しやすいなどの問題があることが指摘された。また、自然に任せる方法は、水辺の再生に有効であると思われるが、洪水や浸水などの治水上の問題を常に抱えていることが示された。
 住民による方法は、創意工夫による多様性の創出、きめの細かい管理、土地柄に合った水辺の再生等がおこなわれる可能性があることとともに、豊かな地域社会を作る上でも重要であることが述べられた。最後に河北潟地域での住民による水辺再生の取り組みが紹介された。

「『水生植物保全プロジェクト』実践の報告」 川原奈苗 氏(河北潟湖沼研究所)
 昨年10月から12月におこなわれた「河北潟水質浄化・水生植物保全プロジェクト」の取り組みの様子の紹介と活動の総括が報告された。
 活動がおこなわれた3箇所の水辺で、あわせて5.7トンの外来植物チクゴスズメノヒエと、75キログラムの枯死したヒシが選択的に取り除かれ、当初に予定された範囲の水草の除去と水辺の保全が完了したことが報告された。活動の中でさまざまな作業方法や作業道具が開発され、それらのことが、作業を円滑におこなう上で重要あったこと、またこうした技術の獲得により、市民が手作業によって水辺を管理することが可能であることが示された。
 また活動の中で、多くの市民が関心を持ち作業に参加したこと、さらに参加者が楽しみながら作業をおこなうことができたこと、結果として、人と人、潟と人とのふれあいに満ちた心身共に健全な活動となったことが報告された。

 第2部は当初のパネルディスカッションから予定を変更して、3つの分科会を行いました。全体テーマは、「市民による水辺の保全の可能性」として、分科会1は、水辺保全の目標ということで、「市民による河北潟の水辺再生 基本構想づくり」のサブテーマで話しあいました。分科会2は、活動の仕組みづくりとして、「水辺再生の主役は市民 参加の仕組みを考える」というサブテーマ、分科会3は、実践のための技ということで、「手作業で楽しい水辺の保全 技を考える」と題して話し合いをおこないました。
 
 シンポジウムの詳細、分科会ごとの話し合いの中身については、今後このホームページやニュースレター「かほくがた」、機関誌「河北潟総合研究」等で報告していく予定です。

 
講演の様子。演者は永坂正夫氏   分科会2の様子。

 

(配信日 2006年2月8日)