金沢城公園の森は貴重なビオトープ
 
 金沢城公園は、昨年と今年、大きなイベントの会場となりますが、公園整備にともない400年の森の環境の悪化が危ぶまれています。先頃発行されたビオトープ交流会ニュースレター「身近な自然」に当研究所の川原奈苗研究員による、金沢城公園の森を題材にした文章が掲載されていますので転載いたします。

「夢みどりいしかわ2001」とビオトープ
(「身近な自然」創刊号より一部転載)
  川原奈苗

 金沢城公園には、かつて丘陵地であった頃の二次林が残されています。本丸園地の森は、旧藩時代に植栽された樹木、その後自生した樹木や灌木、笹藪、山野草も多くみられ複雑な構造をしてます。金沢城公園の南西端、県立体育館の裏側にも1ヘクタールほどの古い林があります。ここは2つのシイの大径木が枝を張り、薄暗い混交林となっています。ここではフクロウが何度か確認されています。観光用通路がなく人の立ち入りが少ないため、フクロウにとっては比較的安心な空間ではないかと思われます。また金沢城公園の西端の谷間にも高木層をふくむ自然林が残されています。このような鬱蒼として見通しの利かないような林は、公園や神社など市街地にある他の緑地では、ほとんどみることができません。金沢城公園の森林はまちなかの貴重なビオトープであるように思います。
 「夢みどりいしかわ2001」フェアが昨年9月8日から11月11日にかけて開催され、たくさんの人が集まりました。金沢城公園の入場者は127万人にも上ったそうです。フェアでは公園内を「もり」「にわ」「くらし」のゾーンにわけて紹介していました。「もり」は、そこで生まれた天然のものであり、フェアに向けて人の手によって急速につくれるものではありません。しかしフェアの公園整備により、林周囲の樹木や通路付近の下草が刈りとられて森林内部は明るくなり、環境条件がだいぶ変わってしまいました。残されてきた僅かな「もり」をこれ以上損なわないように十分に考慮してほしいと思います。一方「にわ」では花壇や植え込み、湿性園、日本庭園などさまざまな要素を盛り込んだものが造成されました。これらは歴史や文化的な価値から創出されたと思われます。「にわ」での緑化は、野生種ではなく本来の環境にはないものが小規模にバラバラにくみ合わさったものです。このような「緑化」という評価は難しいですが、生物自らの力と周辺環境との相互作用の中で成りたっている自然とは異なったものです。単調な空間である緑では、多くの生きものは息づくことが難しく、このような空間が緑の保全という観点で広がることには問題を感じます。
 1989年〜1994年の調査に基づく金沢城公園の生物相が「城跡の自然誌」(大串龍一,1995)で報告されています。動物の種類数では哺乳類9種、鳥類96種、爬虫類12種、両生類7種、魚類1種のほか、無脊椎動物についてもそれぞれまとめられていますが、当時の金沢城公園には数多くの生物が生息していたようです。およそ10年が経過した現在の状態を知るために調査が実施されていますが、消失した種は多く存在するようです。
 現在金沢城公園では、加賀百万石博に向けてさらに整備が進められています。金沢の市街地に残されてきた林とそこで生きている生物が消え去ってしまわないよう願っています。