河北潟でクロヅルを初確認

 10月28日に河北潟の近くの水田で、クロヅルが飛来しているのが確認されました。最初に確認したのは、河北潟で野鳥の研究を続けている中川富男氏です。クロヅルは、毎年鹿児島県にはナベヅルやマナヅルに混じって少数が飛来しますが、日本のその他の地域で確認されるのはきわめて珍しいとされています。河北潟ではこれまで正式な確認記録はなく、おそらくはじめての確認報告になると思われます。このたび、発見者の中川氏より写真の提供と、同時に観察をおこなった河北潟湖沼研究所生物委員会の三浦淳男氏より、観察記録の報告をいただきましたので、以下にご紹介いたします。

(写真上部に見えるのがクロヅル、下にはハマシギの群れが写っている。撮影:中川富男氏)

10月28日 13:40P.M. 用足しを切り上げて河北潟へ向かう。
中川さんから携帯が入った。
クロヅルが来てる。

遠目から位置を押さえる。中川さんの車に接近して横付ける。
双眼鏡に入れた。"ウン!"つまりクロヅルだ。

暴風。200羽ばかりのハマシギが水のついた田圃の畦に並んでいる。吹き寄せられてくる虫をついばんでいるようだ。その向こうに二番穂をつけた稲が伸びて風に翻弄されている。
クロヅルはそこに立っていた。

波立つ穂の中を時間を踏みしめるようにゆっくりと移ろっていく。何かをひろいあげるように首が下に伸びて消える。直接二番穂をつついているようにも見える。

両翼初列(P)7,8番換羽中。P7,P8の順で伸長中。飛翔中わずかに段差が出る。9番から先は旧羽。束の間の飛翔で詳細は取れない。
頭頂の赤味は一見しては感じられない。光が降り注ぐと、黒い羽毛の角に赤味が透けて浮くような瞬間がある。胴体の灰色はやや明るく映える。
虹彩は赤を匂わせる黄色。天候によって赤みが強く出る。光が当たると底の黄色が出てくるようだ。
成羽になり切っていない印象。

クロヅルをのぞく双眼鏡の中でチュウヒの幼鳥がひらめいて過ぎる。
ハマシギの群が繰り返し割れては飛び立つ。ハヤブサの幼鳥が突っこんでいく。
低く入ってきたチョウゲンボウが翼を絞った。畦の上のハヤブサに切れ込んでいく。
流れてきたチュウヒに苛立ってハヤブサは飛び立つ。背後から絡んで追い出しにかかった。チュウヒは無関心だ。"グェグォ"おめき声を上げるとハヤブサは一気に離れ去ってしまった。
河北潟は冬の興奮に入り込んだ。

風は車の中にいる僕等を絶え間なく揺さぶる。
光と雲が風によって手荒く変化していく。
クロヅルだけが、揺れる光の中で優雅に佇立している。

* 20年ほど前、アネハヅルが入ったこともあったようだ(非公式)。河北潟でのクロヅルの記録は初めてと思われる。
換羽についての正確な情報をお持ちの方はお知らせください。

(文責:三浦 淳男)

 

今回河北潟で確認されたクロヅル。日本には鹿児島県出水には毎年数羽程度飛来するが、その他の地域に現れるのはきわめて珍しい。環境省レッドリストには情報不足種として扱われている。(撮影:中川富男氏)

 

クロヅルの飛来した水田の続きで確認されたハマシギの群れ。日本への渡来数の多い種の一つである。おもに本州以南で越冬する。河北潟と河北郡の海岸部は重要な越冬地の一つである。(撮影:中川富男氏)