津幡町に対して提案したエサキアメンボ生息地の保全対策の内容

 4月14日付の北國新聞では本ホ−ムページでも掲載したエサキアメンボの生息する水路の消失についての記事が掲載されています。
 このなかで「津幡町によると、同研究所から、生息確認場所を確保してほしいとの要望はあったが、具体的な保存方法は示されなかったという」と書かれています。実際には保全のための対策について昨年5月に町に対して具体的に提案しており、事実とは相反しています。
 町に対しておこなった提案は以下の通りです(提出した「提案書」から一部を抜粋)。

 現在のエサキアメンボの生息環境を守りながら、これらの問題を解決するためには以下のような対策が考えられる。
1)現在の生息地に対しての住民の理解を促進し、住民の賛同のもとで保全をおこなう:現在の水路があることに対しての住民の苦情が出ることやこの場所を訪れることが敬遠されることを想定して、この場所の改変を計画するという発想は採らず、この場所を訪れた人に、植生が繁茂していることにより、多くの水辺の動物が生存できることを知らせ理解を得ることにより、植生のある現在の状態を保全する立場をとることを、第一の保全対策の柱とする。またこうした市民の理解のもとで、ゴミの放棄等を予防する。
2)現在の環境とエサキアメンボの積極的活用:現在県内において唯一のエサキアメンボの生息場所であることを積極的にアピールする。多くの昆虫がいることを知らせ、漕艇場利用の促進に、むしろ現在の環境を積極的に活用する。エサキアメンボを津幡町の天然記念物に指定し、適正な保全対策をとることなども考慮していく。水路の説明板等を設置する。
3)目に付きやすい場所の改良:水路に架かる橋の両側など、目立つ場所には別図に示すような改良工事を施し、自然植生の代わりに花を付ける園芸品種などを植栽し、景観への配慮をおこなう。また、この対策により水質の汚濁を目立たないようにする。水の汚濁はある程度の範囲であれば、水生動物には影響はない。
4)ゴミの除去、部分的浚渫:水路の部分的改良に併せて、全域にわたりゴミの除去と浅くなった場所の部分的浚渫をおこなう。水路中央部まで植生が入り込んでいる場所では、魚類などの特定の水生動物の生息には適さない環境となるため、今回の改良工事に併せて部分的に除去する。

津幡町との協議の経過と問題の本質

 津幡町と協議する中で、町は当初の全面埋め立ての立場を変え、水路を全面改修して、その後に点々と小さな水辺ビオトープ空間を創造するという提案をしてきました。この案で示された、「ビオトープ空間」はきわめて小さいもので、また人工的なものであったため、この案では、エサキアメンボは生息できないことを指摘しました。その後、私たちは上記のような提案をおこないましたが、町は、私たちのほぼ全域の現状を残すという案はとても受け入れられないとして、現在の水路の約1/3を現状のまま残す案を示しました。この案は、これまでの対策案に比べ、水路に生息する生物を守る上では効果のあるものと考えられました。その時点で私たちはこれを一定の前進として評価しながらも、保全される場所にはエサキアメンボはみつかっていないこと、植生の状態もエサキアメンボのいる地点とは少し異なっていること、保全区域はより拡大すべきであることを意見として述べました。本来は、さらに協議をおこない、保存区間の拡大や設定地点の変更等について求めるべきでしたが、その後は話し合いをおこないませんでした。その後、工事は着工されました。
 現在埋め立てられた現場をみると、保全区域の設定が、漕艇場周辺の整備上の都合だけから決定されたものであり、エサキアメンボ保護を第一に想定されたものではないことがわかります。野生生物保全の考え方が町行政の中にまだまだ根付いていないことが、工事後の状態からや、町との協議を通じて感じられました。しかし、こうした野生生物保全に対しての中途半端な対策は、津幡町だけのことではなく、県内でも至る所でおこなわれています。
 ほとんどが農村と山林地域からなる津幡町においても、野生生物保全に対して何らかの対策がおこなわれるようになったことは、時代の流れであり大きな前進です。今では、まじめで積極的な行政担当者はよく勉強し、保全と開発の狭間にたって苦労しながらがんばっています。私たちNGOも経験を積みながらよりよい提案と協力ができるように努力しています。しかしまだまだ、自然環境や野生生物をどう守るのかという本質よりも、どのような折衷案をつくるのか、落としどころをどこにするのかとといったところに努力の大半が費やされてしまっているのが現状です。そのために、生物の専門家から見ると首をひねってしまうような保全対策が、一方で過大に評価され、積極的にアピールされたりしています。これまで私たちは、単に反対するだけではなく、行政や業者との協働の重要性を認識し行動してきました。しかし、今回の水路埋め立ての現場を見ると、妥協案の問題点を改めて感じました。
 今回のエサキアメンボのことは、石川県の自然環境保全の現状を端的に示す例であるとも思われ、ホームページでもお知らせしたものです。また、もう既に、中途半端な対策でお茶を濁すような時代は石川県でも終わるべき時に来ていると思います。そして、(公共事業であれば税金が使われることになる)対策がほんとうに意味のあるものなのかを検証しなければならない時期に来てるのだと思います。
 石川県は、こうした点でまだまだ遅れています。今回の問題をホームページでお伝えしているのも、多くの方に現状の問題点をお知らせし、今後、新しい保全対策の段階に進むことを願ってのことです。津幡町は現時点でできるそれなりの対策をおこなっているのであり、より本質的な問題は、有効な野生生物や自然環境保全対策をとることができるだけの行政や市民を含めた全体のレベルが熟していないことにあると思われます。したがって、今回の記事はけっして津幡町の対策を一方的に非難するためのものではありません(文責、高橋久)。